カテゴリ:novel( 2 )

sweet

 街中がハートとピンクで埋め尽くされて早2週間。あと2週間はこんな感じに彩られ、2月15日になったとたんに今度は水色一色に埋め尽される。会社のおじさん連中と、営業先の担当のオヤジにしかあげる当てのない私にとって、今年の2月と3月はヘドが出そうなくらい退屈なものでしかない。
 「お菓子メーカーに躍らされてる」
そう言う人は自分と無縁だと思ってたけど、いざ自分がそういう立場になるとやっぱり悪態をついて、その同じセリフを給湯室で浮かれてる新人にチクリと吐いた。

「瀬戸さん どぉしたんですかぁ?もしかして2日目ですかぁ?」

甘ったるい声で新人のユカが笑う。私とは正反対のタイプの女だ。天然を装いながら計算してるのが丸見えで、会社の男連中は気付いてて気付かないフリをしてるのか、それとも本当に気付いてないだけなのか、皆ユカには甘い目で接している。その皺寄せが、入社5年目の私のデスクの上に山積みになっている書類の山なのだ。

どうせ私には平日の夜に会う男も、週末を過ごす相手もいないのだから、頼んでも平気だろうって思ってるんだろう。皆が帰った後のフロアは照明も落とされ、悲しいかな、暖房さえもここんところの不景気のおかげで、たった一人の残業者には入れてもらえない。

「ふぅ・・・・。」

やっと仕事も片付き、私は腰を上げた。時計は22時を17分ほどすぎていた。
走れば48分の電車に乗れる、そう思って私は急いで上着を羽織り、マフラーを巻いて会社を出た。びゅぅっと冷たい風が頬を刺す。

「うう。寒い!」

寒いと言ったらもっと寒くなるって子供の頃は思ってそういう単語は口にしないでいたけど、大人になるとついつい口に出てしまうし、独り言も出てしまう。歳を取ったなあ なんて思いながら、駅までの道を走った。

一瞬だった。

「あ!」

ヒールのかかとがバキッと大きな音を立てたと同時に、勢いよく前に転げてしまった。恥ずかしい。昼間じゃなくてよかったと思いつつも、なかなか顔を上げられずにいた。

「あの・・・・大丈夫ですか?」

ふと若い男の声がして顔をあげると、20歳前後くらいのラフな格好をした男の子が腰をかがめて立ち止まっていた。

「あ・・・・あ、はい。大丈夫で・・・す」

乱れた髪の毛を正しながら、慌てて起きあがろうとしたが、手のひらと膝を道路にぶつけたのか刺すような痛みが私を襲った。さらに最悪な事に、さっきの大きな音はヒールのかかとが無残にも折れる音だったようで、使い物になりそうもない右足用のヒールが転がってた。

「ああ・・・。靴折れちゃったんですね?オネエサン家近いんですか?」

「いいえ。ちょっと距離はあるんです。」

「へえ。電車とかバスとかのります?」

「ええ。」

「片靴じゃ乗れないですよねえ?はずかしいですもんね?」

「う・・・。うーん。そうですね。」

たしかにそうだ。こんな時間とはいっても、まだ電車にはいっぱい乗客もいるし、なにより不安定すぎるし不恰好すぎる。

「タクシーとかあるから、なんとかなります。ご親切にありがとうございます。」

その場を立ち去ろうとすると、その男はくっくっと笑って

「俺がタクシー拾いますよ。というか、その格好で一人でいるのってちょっと恥ずかしくないです?」

見ず知らずなのに。下心があるのか、妙に親切な男だと思ったけど、私が返事をする前に男は通りをきょろきょろと見渡してタクシーを探し始めた。
ごぉっと強い風が吹いて私は体をぶるぶると震わせた。痛いし、寒いし、ついてない。

「はい。」

男はぱっと私の手の平に使い捨てカイロを渡した。男が使っていたのだろう。充分なほど温まっていて、ぽわんと私の手の平から暖かさが伝わった。

「いいんですか?」

「俺は男ですから。それに使い捨てだし。家も近いし。」

「そっか。んじゃもらいますね。ありがとう。」

奇特な奴。というかドラえもんチックだなあ、と不思議な感想を持ってしまった。転んだときに頭は打った覚えはないんだけど。

「あ。ねえタクシー止まりますよ。」

男はにっこりそう笑って私の肩をたたいた。

「あ。本当。ありがとうございます。」

「オネエサン、次は走るときは下見ながら走ったほうがいいですよ。」

「・・。そうですね。」

人懐っこいなあ、下心なんてないのかも、ってちょっと嫌な風にとらえたさっきの自分を後悔した。

「あ。そうだ。ねえオネエサン 手だして。」

「?」

手を差し出すと、男はキットカットの箱を私に手渡した。

「チョコ?なにこれ。」

不思議に思ってたずねると、男はにっこりと笑ってこう言った。

「オネエサン仕事帰りでしょ?疲れてるんじゃないかなと思ったのと、転んでも泣かなかったオネエサンへのご褒美。」

ぽかんと一瞬したあと、なんだかおかしくなって笑いがこみあげてきた。

「”ご褒美”ね。ありがと。まさかこんなことでもらうなんて思わなかったですよ。」

「本当はパチンコの景品だったりもするんだけど、それはまあ置いといて。」

「そうなのね。・・・・でも、ありがとう。ちょっとうれしいかも。」

「じゃあ オネエサン明日は転ばないようにしてくださいね。」


走り出したタクシーの中でキットカットの箱を開けて、一個食べてみた。タクシーの中で物を食べるなんて非常識かと思ったけど。
口の中にチョコの甘い香りが広がると同時に、私の胸の中にもなんだか温かい甘さが広がっていった。もうたぶん会う事ないだろうけど、次もし会ったら私は何かお返しでもしよう。鞄にクッキーをいつも忍ばせておこう。なんて、私らしくない事を思った。



バレンタイン企画 【恋愛物語 Ⅱ】

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      バレンタインに先駆けて手作りチョコを作る前に
      心の物語を書いてみませんか?

      ルールは『創作であること』
            『恋愛ものであること』だけです。
      書きたいことを書きたいように書いてください。

      期限は2月14日まで (テケトー)

      トラバ先:http://zoobee.exblog.jp/4028709/

      ※どなたでも参加いただけるようにこのテンプレ
       を文末にコピペしてください。

       企画元:移動動物園 http://zoobee.exblog.jp/
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by czblue | 2006-02-02 03:01 | novel

2/1

「片倉。ここいい?」

ビール片手に寺田尚樹は、私の返事を待たずに右隣の席に腰を下ろした。

「嫌って言っても座るんでしょう?寺田くんは。」

「あは。さすが片倉 俺のことよくわかってんね。さすが毎日一緒にいるだけの事はあるよな。うん。」

調子よく寺田が笑うので私も調子を合わせてみようかと思ったけど、最近の忙しさで引きかけた風邪をおして飲んだアルコールがそうはさせてくれない。

「仕事でしょ。仕事。」

そう言って ビール瓶を手にとって向かいにいる主任にお酌をした。具合悪い顔を見せるとうだうだとうるさいので、とびきりの愛想笑いをして。

「片倉、俺にも。」

寺田はまだ3口ほど残っていたビールを飲み干し、グラスを私に差し出した。
寺田は同期で、まあ顔は悪くない。ただ私の嫌いなお調子者で、自信家で、事あるたびに、私に絡んでくる。面白がられてるのか、気に入られてるのか、真意は定かではない。


呑み会はほどなく解散して、2次会にいく人たちに別れを告げて、歩く私の横になぜか寺田がぴったりとくっついてる。

「ねえ。ちょっと。なんでついてくるの?」

立ち止まって、ちょっと迷惑そうに寺田に言うと、寺田はキョトンとした顔をして言った。

「なんでって。んー。一人で帰れるのかよ?」

「なにそれ。私子供じゃないわよ。」

「具合よくないんだろ?」

今度は私がキョトンとしてしまった。きちんと勧められるままにビールも飲んで、料理も食べて、どこにも具合悪い要素を感じさせるものはないように繕ったというのに。

「やっぱりな。だろうと思ったんだよ。お前な、そういうことで無理してどうすんだよ。これも仕事のうちの飲みだとか思ってんだろうけどさ」

言いながら、寺田は自動販売機でほっとレモンを買って私に差し出した。

「・・・ありがとう。」

普段は寺田だけに限らず、人に甘えたり、弱みを見せずに過ごしてる私にとって、なんだかちょっと調子狂うやりとりに、ちょっと居心地の悪さを感じた。
 


通りに出てタクシーを拾い乗りこむと、寺田も乗り込んできた。

「もぉ。なに?」

「途中まで乗せろよ。方向一緒なんだし。」

「え?優しさかと思えば、タクシー代浮かそうってことなの?病人の私に。」

何を考えてるのかさっぱりわからずに叩き落とそうかと思ったけど、無常にもタクシーは動き出し、体力的にも限界が近いのか、寺田を下ろす元気もなく、仕方なしにあきらめた。
窓の外に目をやり、前方の数々の車のテールランプたちを見ながら私は小さくため息をついた。
突然左手をぎゅっと寺田が握りしめてきた。

「ちょっと、やめてよ。」

体をこわばらせて、そう言うと、寺田は握る力を強めてきた。

「なあ。お前、右手にも左手にも指輪してないんだな。付き合ってる奴いないの?」

「それって握る前に聞くもんじゃないの?それに、付き合ってても指輪もらってなかったらしてないわけじゃん」

「ああ。それもそうだな。で、どうなんだよ」

冗談で聞いてるのか、本気で聞いてるのかわからなくて、でも、どうして寺田が今こうして聞いているのかうすうすと気付いてきた私は、どう返事をしていいのか即答できないでいた。

「・・・付き合ってる人はいない。」

「好きな奴は?」

「・・・・・いるような、いないような・・・。」

正直なところ、自分でもわからない。この1年ただがむしゃらに、何も考えなくてすむように仕事も残業ばかりして、ただ会社と家の往復の毎日を過ごしてきた。仕事が忙しかったのも本当だけど、それは往人を忘れるためにそうした節もあるからだ。

「ふぅん。そっか。じゃあ俺は完全に望みを捨てずにいれるんだな。断わられたわけじゃないもんな。今の。」

そういうと今までの真剣な顔とは打って変わっていつもの寺田のくったくのない、だけど強気な笑顔に戻っていた。

「すいません。あそこのコンビニで止めてください」

寺田は手を離して、内ポケットから1万円札を取り出すと、

「じゃあな。早く寝ろよ。」

と言ってタクシーから降りていった。私は、ほっとしたけど、なんだか胸が苦しくなった。手を握られて思ったのは「違う」という事だった。私が求めてる手のぬくもりや強さがこの手ではないことに。往人の手を思い出していた。ただやさしくふんわりと私の手を握る往人の手を、どうして私は手放してしまったんだろう。
鞄から携帯を取り出し、電話帳を開く。今でも消せない「彼氏」のカテゴリには「往人」の名前が今でも表示されている。この1年、何度もこのメモリを表示させては、涙を流した。ただ出来ないのは通話ボタンを押すことと、メモリを消去することだ。

声がききたい。せつない夜は声がききたい。

忘れようとしても、忘れようとすればするほど、自分の気持ちに押しつぶされそうになって苦しくなる。誰に好かれてもうれしくない。ただ悲しいだけ。

私は窓の外にまた目をやった。テールランプたちがぼんやりとにじんできて、頬にすぅと涙がつたった。運転手に気付かれたら気まずいと思ったけど、酔っているせいか、涙は止まらなかった。

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登場人物紹介
☆片倉 麻里(かたくら まり)会社員/23歳(5月16日生)
☆橘 征人(たちばな ゆきひと)会社員/22歳(12月23日生)
☆寺田 尚樹(てらだ なおき)会社員/23歳(8月9日生)


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えっと、、、便乗してみました。12月のネタみたいですが・・・・てへてへ。
皆さん文才豊かですね♪
おはずかしい。。。

とりあえず 続けばいいなーという 願いを込めて・・・。駄作ですみません。
そして「ベタ」な仕上がりになっちゃいました。
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by czblue | 2006-02-01 19:50 | novel